第5話

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ただしが椅子の中に住んでいるようです? 第5話

ついに正体が明らかに……? 人間椅子や江戸川乱歩,作家を交えながらわかりやすく解説

2016/02/03

えいすけこばやし

7

人間椅子 江戸川乱歩 作家 ホビー 日本文学 小説

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  • ついに最終回です。椅子の中の人の正体は!?

  • …買手のお役人は、可なり立派な屋敷の持ち主で、ボクの椅子は、そこの洋館の広い書斎に置かれたんだしが、ボクにとって非常に満足であったことは、その書斎は、主人よりはむしろ、その家の若くて美しい夫人が使用されるものだったこんだし! 

きたー
  • それ以来、約一カ月間、ボクは絶えず、夫人とともにいたんだし。夫人の食事と、就寝の時間を除いては、夫人のしなやかな身体は、いつも私の上にあったんだしよー。それというのが、夫人は、そのあいだ、書斎につめきって、ある著作に没頭していたからなんだし。

  • なるほどね。幸運よね。おっさんに座られると思っていたら、どうやら相当な美人の芸術家みたいなご婦人の椅子になったなんてね。で、こいつはこの夫人とどうなるのかしらね?

  • ボクはどんなに彼女を愛したか、それは、ここにくだくだ申し上げるまでもないんだし。彼女は、ボクのはじめて接した日本人で、しかも充分美しい肉体の持ち主であったんだし。ボクは、そこにはじめて、本当の恋を感じましただし。

  • それに比べては、ホテルでの、数多い経験などは、決して恋と名づくべきものではございませんだったし。その証拠には、これまで一度も、そんなことを感じなかったのに、その夫人に対してだけは、私は、ただ秘密の愛撫を楽しむのみではあきたらず、どうかして、私の存在を知らせようと、いろいろ苦心したのでも明らかなんだし。

  • お、ついに椅子の中から外への本物の告白をするのかな? この小説の主人公って、ある意味で今の引きこもりの若者の偶像よね。部屋の中でアイドルに恋しているのと、椅子の中から外の女性に恋をしている。そして、両方とも告白できない。 これはとっても似ていると思うわ。この手紙の主、実は相当な天才なのかもしれないわね……。

  •  ボクは、できるならば、夫人のほうでも、椅子の中の私を意識してほしかったんだし。そして、のいい話でしが、ボクを愛してもらいたく思ったんだし。でも、それをどうして合図したらいいんだしか? もし、そこに人間が隠れているということを、あからさまに知らせたなら、彼女はきっと、驚きのあまり、主人や家のものに、そのことを告げるに違いないんだし。

  • それではすべて駄目になってしまうばかりか、私は恐ろしい罪名を着て、法律上の刑罰をさえ受けるのは確実なんだし。  そこで、ボクは、せめて夫人に、私の椅子を、この上にも居心地よく感じさせ、それに愛着を起こさせようと努めたし。

  • ふむふむ…。

  • 芸術家である彼女は、きっと常人以上の微妙な感覚を備えているにちがいありませんだしから。もし彼女が、ボクの椅子に生命いのちを感じてくれたなら、ただの物質としてではなく、ひとつの生きものとして愛着を覚えてくれたなら、それだけでも、私は十分満足だったんだし。

  • 確かに、その想いを椅子の中から伝えるのは難しいわよね……。これって、もし見つかったら、どんな罪に問われるのかしら。不法侵入どころじゃないわよねきっと。

  • ボクは、彼女が私の上に身を投げた時には、できるだけフーワリと優しく受けるように心掛けました。彼女が私の上で疲れた時分には、わからぬほどにソロソロと膝を動かして、彼女のからだの位置を変えるようにいたしました。そして、彼女が、ウトウトと居眠りしはじめるような場合には、私は、ごくごく幽かに膝をゆすって、揺籃の役目を勤めたことでございます。

  • マッサージ椅子かよっっ!! こ、これはもしかすると機械じゃなくて、人間版のマッサージ椅子! ある意味斬新だわ……。こんな商売、これから流行るかも。 で、で?

  • その心遣いが報いられたのか、それとも、単にボクの気の迷いか、近頃では、夫人は、なんとなくボクの椅子を愛しているように思うんだし。彼女は、ちょうど乳児が母親の懐ふところに抱かれるときのような、または、乙女が恋人の抱擁に応じるときのような、甘い優しさをもってボクの椅子に身を沈めます。そして、ボクの膝を上で、身体を動かす様子までが、さも懐かしげにみえるのでございます。

  • …かようにして、ボクの情熱は日々に烈しく燃えて行くのでした。そして、ついには、アア、奥様、ついには、ボクの身のほどもわきまえぬ、大それた願いを抱くようになったのでございます。たったひと目、ボクの恋人の顔を見て、そして、言葉を交わすことができたのなら、そのまま死んでもよいとまで、思いつめたのでございます。

  • キターーーーーーーー! ついに椅子からの登場かしら? ついに告白かしら? うんうん、この妄想小説ありだわ! 面白い! どうなるのかしら! 目が離せない。ついにクライマックスね?!

  •  奥様、あなたは、むろん、とっくにお悟りでございますだしよね。そのボクの恋人と申しますのは、あまりの失礼をお許しくださいませ。実は、ゆりか氏なのでございます。あなたの御主人が、あのB市の道具店で、ボクの椅子をお買い取りになって以来、ボクはゆりか氏に及ばぬ恋をささげていた、哀れな男なんだし。

こええよ!
うわあああああああああ
  •  ゆりか氏、一生のお願いなんだし。たった一度、ボクにお逢いくださるわけにはまいらぬでございましょうか。そして、ひとことでも、この哀れな醜い男に、慰めのお言葉をおかけくださるわけにはまいらぬでございますだしか? ボクは決してそれ以上を望むものではないんだし。そんなことを望むにはあまりに醜く、汚れ果てたボクなんだし。どうぞ、どうぞ、世にも不幸な男の、切なる願いをお聞き届けて欲しいんだし。

  • ????!!!!???!! えっ? えっ?

  • ボクはゆうべ、この手紙を書くために、お屋敷を抜け出したんだし。面と向かって、ゆりか氏にこんなことをお願いするのは、非常に危険でもあり、かつ私にはとてもできないことなんだし。  そして、いま、あなたがこの手紙をお読みなさる時分には、ボクは心配のために青い顔をして、お邸のまわりを、うろつきまわっているんだし。

  • …。

  • もし、この、世にもぶしつけな願いをお聞き届けくださるんだしなら、どうか書斎の窓の撫子なでしこの鉢植えに、あなたのハンカチをおかけくださいまし。それを合図に、ボクは、何気なき一人の訪問者として、お邸の玄関を訪れるんだし。

  •  そして、この不思議な手紙は、ある熱烈な祈りの言葉をもって結ばれていた。  ゆりかは、手紙の半ばほどまで読んだとき、すでに恐ろしい予感のために、まっ青になってしまった。  そして無意識に立ち上がると、気味のわるい肘掛椅子の置かれた書斎から逃げ出して、日本建ての居間のほうへきていた。手紙のあとのほうは、いっそ読まないで破り棄すててしまおうかと思ったけれど、どうやら気掛かりなままに、居間の小机の上で、ともかくも、読みつづけた。

    ※乱歩さんです。

乱歩w
  • …。

  •  ゆりかの予感はやっぱり当たっていた。  これはまあ、なんという恐ろしい事実であろう。彼女が毎日腰かけていたあの肘掛椅子の中には、見も知らぬ一人の男がはいっていたのである!

  • おお、気味のわるい

む?
  •  ゆりかは、背中から冷水をあびせられたような悪寒を覚えた。そして、いつまでたっても、不思議な身震いがやまなかった。  ゆりかは、あまりのことに、ボンヤリしてしまって、これをどう処置すべきか、まるで見当がつかぬのであった。椅子を調べてみる? どうしてどうして、そんな気味のわるいことが、できるものか。そこには、たとえもう人間がいなくとも、食べ物その他、彼に附随した汚いものが、まだ残されているにちがいないのだ。

  • 奥様、お手紙でございます

  •  ハッとして、振り向くと、それは、一人の女中が、いま届いたらしい封筒を持ってきたのだった。  ゆりかは、無意識にそれを受け取って、開封しようとしたが、ふと、その上書きを見ると、ゆりかは、思わずその手紙を取りおとしたほども、ひどい驚きに打たれた。そこには、さっきの無気味な手紙と寸分違わぬ筆癖をもって、自分の宛名が書かれてあったのだ。

  • これは…。

  • ゆりかは長いあいだ、それを開封しようか、しまいかと迷っていた。が、とうとう最後にそれを破って、ビクビクしながら中味を読んで行った。手紙はごく短いものであったけれど、そこには、彼女を、もう一度ハッとさせたような、奇妙な文句が記されてあった。

  • 突然御手紙を差し上げますぶしつけを、幾重にもお許しくださいましだし。ボクは日頃、先生のお作を愛読しているものなんだし。別封お送りいたしましたのは、ボクの拙い創作でございます。御一覧の上、御批評がいただけますれば、この上の幸いはございませんだし。或る理由のために、原稿のほうは、この手紙を書きます前に投函いたしましたから、すでにごらんずみかと拝察いたしますだし。

へー
  • 如何でございましただしか? もし拙作がいくらかでも、先生に感銘を与え得たとしますれば、こんな嬉しいことはないんだし。  原稿には、わざと省いておきましたが、表題は「人間椅子」とつけたい考えでございますだし!  では、失礼を顧みず、お願いまで。

    ただし。

  • あの野郎……。

  • 手紙越しなのにいたいいっっっ!!!

ワロタ
  • おわり

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