第4話

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ただしが椅子の中に住んでいるようです? 第4話

ついに正体が明らかに……? 人間椅子や江戸川乱歩,小説を交えながらわかりやすく解説

2016/02/02

えいすけこばやし

6

人間椅子 江戸川乱歩 小説 ホビー 日本文学 作家

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  • ゆりかに届いた、気持ち悪くも気になって読んでしまう一通の手紙……いよいよ変態度を増してきた謎の男からの手紙がさらにおかしな方向に……。

    続きます!

  • 声を想像すれば、それは、まだうら若い異の乙女だったんだし。ちょうどその時、部屋の中には誰もいなかったんだしが、彼女は、何か嬉しいことでもあった様子で、小声で、不思議な歌を歌いながら、踊るような足どりで、そこへはいってきたんだし!

RANPO
  • そして、ボクのひそんでいる肘掛椅子の前まできたかと思うと、いきなり、豊満な、それでいて、非常にしなやかな肉体を、私の上へ投げかけたんだし。しかも、彼女は何がおかしいのか、突然アハアハ笑い出し、手足をバタバタさせて、網の中の魚のように、ピチピチとはね廻ったんだし。

  • こ、こいつ……、相当エロいな…。このどうにも引っかかる表現。どっかで会ったような気がするの勘違いかしらね……。で、このあと、どうなったのかしら?

  • それから、ほとんど半時間ばかりも、彼女はボクの膝を上で、ときどき歌を歌いながら、その歌に調子を合わせでもするように、クネクネと重いからだを動かしていたんだし!

    …これは実に、ボクにとっては、まるで予期しなかった驚天動地の大事件だったんだし。女は神聖なもの、いや、むしろ怖いものとして、顔を見ることさえ遠慮していたボクなんだし。

ワロタ
  • そのボクが今、見も知らぬ異国の乙女と、同じ部屋に、同じ椅子に、それどころではないんだし、薄いなめし革ひとえ隔てて、肌のぬくみを感じるほども密着しているのでございます。

  • それにもかかわらず、彼女は何の不安もなく、全身の重みを私の上に委ねて、見る人のない気安さに、勝手気儘ままな姿態をしているんだし。ボクは椅子の中で、彼女を抱きしめる真似をすることもできるし、革のうしろから、その豊かな首筋に接吻するんだし。そのほか、どんなことをしようと、自由自在なんだし!

ふむふむ
  • か……、完全に変態よね……。この人。特に、クネクネと重いからだを動かしていたとか、彼女を抱きしめる真似をすることができるとか、狂ってるわ……。でも、なんかある意味ではすごい才能を感じるのも確かなのよね……。

  •  この驚くべき発見をしてからというものは、ボクは、最初の目的だった盗みなどは第二として、ただもう、その不思議な感触の世界に惑溺してしまったんだし! そして、ボクは考えたんだし。これこそ、この椅子の中の世界こそ、私に与えられた、ほんとうのすみかではないかと。

  • ボクのような醜い、そして気の弱い男は、明るい光明の世界では、いつもひけ目を感じながら、恥かしい、みじめな生活を続けて行くほかに、能のない身なんだし。それが、ひとたび、住む世界をかえて、こうして椅子の中で窮屈な辛抱をしていさえすれば、明るい世界では、口を利くことはもちろん、そばへよることさえ許されなかった、美しい人に接近して、その声を聞き、肌に触れることもできることが分かったんだし。

  • こいつの容姿が気になる。癖が気になる。そして、変態なのは間違いないんだけど、なんだか不思議な文才も気になるわね……。そして、この手紙のラストを先に読んでしまいたい。けれど、順番に読んでしまう自分が嫌になるわ……。

  • 椅子の中の恋! それがまあ、どんなに不思議な、陶酔的な魅力を持つか、実際に椅子の中へはいってみた人でなくては、わかるものじゃあないんだし。それは、ただ、触覚と、聴覚と、そして僅かの嗅覚のみの恋なんだし。暗やみの世界の恋なんだし。決してこの世のものではなんだしが、これこそ、悪魔の国の愛欲なんじゃないかし?

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  • …考えてみれば、この世界の、人目につかぬすみずみでは、どうような異形な、恐ろしい事柄が行われているか、本当に想像の他なんだし。  もちろんはじめの予定では、盗みの目的を果たしさえすれば、すぐにもホテルを逃げ出すつもりだったんだしが、この、世にも奇怪な喜びに夢中になったボクは、逃げ出すどころか、いつまでも、椅子の中を永住のすみかにして、その生活を続けていたんだし。

  • 椅子の中に永住? 永住って永遠に住むってことよね? つまり、衣食住を椅子中で永遠にするという。そ、そんなことを考えているなんて……。まあ、妄想、小説なんだから良いようなものの、完全にいっちゃってるわ、この人。

  • 夜々の外出には、注意に注意を加えて、少しも物音を立てず、また人目に触れないようにしていただしから、当然、危険はありませんでしたが、それにしても、数カ月という長い月日を、そうして少しも見つからず、椅子の中に暮らしていたというのは、我ながら実に驚くべきことだったんだし。

  • ほとんど一日じゅう、ひどく窮屈な場所で、腕を曲げ、膝を折っているために、からだじゅうが痺れたようになって、完全に直立することができず、しまいには、料理場や化粧室への往復を、躄(いざり)のように這って行ったほどだったし。ボクという男は、なんという変態なんだし……。それほどの苦しみを忍んでも、不思議な感触の世界を見捨てる気にはなれなかったんだしよ。

  • 中には一カ月も二カ月も、そこを住居のようにして、泊りつづけている人もいるんだしが、元来ホテルのことですから、絶えず客の出入りがあるんだし。従って私の奇妙な恋も、時とともに相手が変わって行くのを、どうすることもできなかったんだし。そして、その数々の不思議な恋人の記憶は、普通の場合のように、その容貌によってではなく、主としてからだの恰好によって、私の心に刻みつけられている感じになっていくんだし。

きもい
  • 顔もわからないのに、身体の「感覚」だけで恋を勝手にする……。変態ね。でも、考え方によっては、ある意味正解かもしれないわね。だって、今の時代、見た目見た目の世界。なのに、この変態は、変態なのは間違いなくても、身体から感じるもので恋をしている。これは逆にありかもしれないわ…。 あ、私ったら、こんな変態の手紙にちょっと共感を覚えているなんて……。

  •  あるものは、仔馬のように精悍で、すらりと引き締まった肉体をもち、或るものは、蛇のように妖艶で、クネクネと自在に動く肉体を持ち、或るものは、ゴム毬のように肥え太って、脂肪と弾力に富む肉体を持ち、また或るものは、ギリシャの彫刻のように、ガッシリと力強く、円満に発達した筋肉を持っておりました。そのほか、どの女の肉体にも、ひとりひとり、それぞれの特徴があり、魅力があったんだし。

  • さて、ちょっと心を正常に戻さないといけないわね。気味が悪いのに、なぜか惹かれてしまっている自分が気持ち悪いわ。こんな変態の手紙に翻弄されるなんてね。暖かい紅茶でも入れて続 きを読みましょう……。

わかる
  •  …そうして、女から女へと移って行くあいだに、私はまた、それとは別な、不思議な経験をも味わうようになったんだし。そのひとつは、ある時、欧州の或る強国の大使が(日本人のボーイの噂話によって知ったんだしが)その偉大な体躯を、私の膝の上にのせたことがあったんだし。

  • それは、政治家としてよりも、世界的な詩人として、いっそうよく知られていた人なんだしが、それだけに、ボクは、その偉人の肌を知ったことが、わくわくするほども誇らしく思えたんだし。彼はボクの上で、二、三人の同国人を相手に、十分ばかり話をすると、そのまま立ち去ってしまったんだし。むろん、何を言っていたのか、ボクにはさっぱりわかりませんけれどだし、ジェスチャーをするたびに、ムクムクと動く、常人よりも温かいと思われる肉体の、くすぐるような感触が、ボクに一種名状すべからざる刺戟を与えたんだしよね。

  • こいつ妄想の中で相当に楽しんでいるわねー。でも、この椅子の中から上に座られている感覚ってどんなものなのかしら? 経験したことがないからわからないけれど、私が昔、バイトで遊園地のゆるキャラの中に入って、お客さんに抱きつかれた、あんな感覚なのかしらねえ? 正直、キモいけど、ちょっと楽しそうだわ……。

  •  その時、ボクはふとこんなことを想像てしまったんだし。もし! この革のうしろから、鋭いナイフで、彼の心臓を目がけて、グサリとひと突きしたなら、どんな結果を惹き起こすであろう。むろん、それは彼に再び起たつことのできぬ致命傷を与えるにちがいないし。 彼の本国はもとより、日本の政治界は、そのために、どんな大騒ぎを演じることだし? 新聞は、どんな激情的な記事を掲げることであろう。

  •  それは、日本と彼の本国との外交関係にも大きな影響を与えるし、また芸術の立場から見ても、彼の死は世界の一大損出にちがいないんだし。そんな大事件が、自分の一挙手によって、やすやすと実現できるんだし! それを思うと、ボクは不思議な得意を感じてしまうのだし……。

  • え? こいつ、ただのエロ椅子人間だと思ったら、なんか方向が変わってきたというか、こんな怖い闇の部分も持っていたのね……。でも、想像力が豊かというか、確かに私が中に入っていたら、少しは同じことを思ったかもしれないわ……。なんか、わかるのよね、この人の妄想の本質が。人間誰でも実は同じようなことをどこかでは思っている。でも、それは世間的に表にしてしまうと異常者だから隠している。  そういう妄想をこうやって小説、手紙にして堂々と書いてくるというのはなかなかすごいことなんじゃないしら?

  •  もうひとつは、有名なある国のダンサーが来朝した時、偶然彼女がそのホテルに宿泊して、たった一度ではあったんだしが、ボクの椅子に腰かけたことでございます。その時も、ボクは、大使の場合と似たような感銘を受けたんだしが、その上、彼女は私に、かつて経験したことのない理想的な肉体美の感触を与えてくれたんだし。ボクはそのあまりの美しさに、卑しい考えなどは起こす暇もなく、ただもう、芸術品に対するときのような敬虔な気持ちで、彼女を賛美しちゃったんだしよ。

  • こ、こいつ、やっぱりただのエロかよ……。ちょっとだけ尊敬をする部分も感じ始めていたのに。 で、こいつのエロ妄想はこれからどうなるんだ?

  •  そのほか、ボクがまだいろいろと、珍しい、不思議な、或いは気味わるい、数々の経験をしたんだしが、それらをここに細述することは、この手紙の目的ではありませんし、それに、大分長くもなりましただしから、急いで、肝心の点にお話を進めることにするんだし。

  • お、ついに本題が来るわね? というか、そもそも私への手紙なのよね。これ。

  •  さて、ボクがホテルへまいりましてから、何カ月かの後、ボクの身の上にひとつの変化が起こったんだし。と言いますのは、ホテルの経営者が、何かの都合で帰国することになり、あとを居抜きのまま、ある日本人の会社に譲り渡したんだしね。すると、日本人の会社は、従来の贅沢な営業方針を改め、もっと一般向きの旅館として、有利な経営を目論もくろむことになったようなんだし。

  • そのため不用になった調度などは、或る大きな家具商に委託して、競売させたのでありますが、その競売目録のうちに、私の椅子も加わっていたみたいなんだし。  ボクはそれを知ると、一時はガックリいたしました。そして、それを機として、もう一度娑婆へ立ち帰り、新しい生活をはじめようかと思ったほどなんだしよ。その時分には、盗みためた金が相当の額になっていただしから、たとえ世の中へ出ても、以前のように、みじめな暮らしをすることはないんだし。

  • こ、こいつはこの椅子の中作戦で、盗みをして相当稼いだってことなのね。これ、小説のトリックとしては相当面白いわね。で、どうなったのかしら。

  • が、また思い返してみますと、外人のホテルを出たということは、一方においては、大きな失望であったんだしが、他方においては、ひとつの新しい希望を意味するものだったんだし。

  • と、言いますのは、ボクは数カ月のあいだも、それほどいろいろの異性を愛したにもかかわらず、相手がすべて異国人であったために、それがどんな立派な、好もしい肉体の持ち主であっても、精神的な物足りなさを感じないわけには行きませんでしたんだし。やっぱり、日本人は同じ日本人に対してでなければ、本当の恋を感じることができないのではないだしか? ボクはだんだん、そんなふうに考えていたんだしよ。

  • 恋って……。完全に一方的じゃないのよ……。しかも、椅子の中と外の恋。いや、これは恋とは言えないわよね……。なのに、外国人じゃダメとか。こいつ、実は相当わがままよね。まあ、小説だからいいんだけどさ。

  •  そこへ、ちょうどボクの椅子が競売に出されたんだし。今度は、ひょとすると日本人に買いとられるかもしれない。そして、日本の家庭に置かれるかもしれない。それが、私の新しい希望だったんだしよ。ボクは、ともかくも、もう少し椅子の中の生活を続けてみることにしたんだし。

  •  道具屋の店先で、二、三日のあいだ、非常に苦しい思いをしたんだしが、でも、競売がはじまると、幸せなことには、ボクの椅子は早速買手がつきましただし。古くなっても、充分に人目を引くほど立派な椅子だったからだしね、きっと。買手はB市から程遠からぬ、大都会に住んでいた或る官史だったんだし。

  • 道具屋の店先から、その人の屋敷まで、何里かの道を、非常に振動の激しいトラックで運ばれた時には、私は椅子の中で死ぬほどの苦しみましただしが、でも、そんなことは、買手が、ボクの望み通り日本人であったという喜びに比べては、物の数でもなかったんだしよ。

  • なるほどね、ついに希望の日本人の家に侵入成功! ってわけね。まあ、その家の椅子を使う人がおっさんでないことを祈るのね。

    それで…?

  • おいwwwゆりかー! というツッコミをのこしつつ、続く!

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