第1話

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ただしが椅子の中に住んでいるようです? 第1話

江戸川乱歩の人間椅子を演じるし! 人間椅子や江戸川乱歩,作家を交えながらわかりやすく解説

2016/01/29

えいすけこばやし

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人間椅子 江戸川乱歩 作家 ホビー 日本文学 小説

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  • 今回は江戸川乱歩の名作、「人間椅子」の世界を、おなじみのあいつらが再現しようとしています。どうぞお楽しみくださいませ。それでは始まります!

  • ユリカは、毎朝、夫の登庁を見送り、いつも十時を過ぎると、やっと自分の体になって、洋館のほうの、夫と共用の書斎へ、閉じこもるのが例になっていた。

    ※乱歩さんです

おいww
乱歩w
ワロタ
www
  • ふぅ…。

  • 彼女は今、B雑誌の夏の増大号にのせるための、長い創作に取り掛かっているのだった。 美しいけいしゅう作家としての彼女は、最近では、外務省書記官である夫の影を薄く思わせるほども、有名になっていた。 彼女のところへは、毎日のように未知の崇拝者たちからの手紙が、幾度となく送られてくる。 今朝も彼女は書斎の机の前に坐ると、仕事に取り掛かる前に、先ず、それらの未知の人々からの手紙に目を通さねばならなかった。

ふむふむ
  • ………。

  • それらのほとんどは、きまりきったように、つまらぬものばかりであったが、ユリカは、女の優しい心遣いから、どのような手紙であろうとも、自分に宛てられたものは、とりあえずはひと通りは読んでみることにしていた。

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  • 簡単なものから先にして、2通の封書と、1葉のハガキを見てしまうと、後にはかさ高い原稿らしい一通が残った。別段通知の手紙は貰っていないけれど、そうして突然原稿を送ってくる例は、これまでもよくあることだった。彼女はともかくも、表題だけでも見ておこうと、封を切って、中の紙束を取り出してみた。

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  • これは…?

  • それは、思った通り、原稿用紙を綴じたものであった。が、どうしたことか、表題も署名もなく、突然「奥様」という、呼びかけの言葉ではじまっているのだった。

  • ?、やっぱり手紙なのかしら。

  • そう思って、何気なく2行3行と目を走らせて行くうちに、彼女はそこから、なんとなく異常な、妙に気味のわるいものを予感した。しかし、持ち前の好奇心が、ぐんぐん先を読ませて行くのであった。

  • 奥様、ことユリカ氏は、少しも御存じのない男から、突然、このようなキモいお手紙を差し上げます事を、お許しくださいだし。

    こんなことを申し上げますと、ユリカ氏は、さぞかしびっくりなさることでございましょうが、ボクは今、あなたの前に、ボクの犯してきた世にも不思議な罪悪を告白しようとしているんだし!

  • …?どういうこと?  

  • ボクは数カ月の間、全く人間から姿を隠して、ほんとうに悪魔のような生活を続けて来たし。もちろん、広い世界に誰一人、ボクの所業を知るものはいないし。もし、何事もなければ、私はそのまま永久に、人間界に立ち帰ることはなかったかもしれないし。

  •  でもだし、近頃になって、私の心に或る不思議な変化が起こったんだし。そして、どうしても、この、ボクの因果な身の上を、懺悔しないではいられなくなりましたし。

    どうか、ともかくも、この手紙を終わりまでお読みくださいませなんだし。そうすれば、なぜ、ボクがこんな気持ちになったのか、またなぜ、この告白を、殊さらにユリカ氏に聞いていただかねばならぬのか、それらのことが、ことごとく明白になるんだし。

www
www
  • なんか奇妙すぎる文章。 でもついつい読み進めちゃうわね…。

  • さて、何から書きはじめたらいいのか、あまりに人間離れのした、奇千万な事実なんだし。だから、こうした、人間世界で使われる手紙というような方法では、妙に面はゆくて、筆の鈍るのを覚えてるんだし!

    でも、迷っていても仕方がないだし。ともかく、順を追って、書いていくことにするんだし。最後まで読んで欲しいんだし!

  • ちっ…押し付けがましいわね…。まあ読むわよ。

  • ボクは生まれつき、世にもブサイク顔の持主なんだし……。これをどうか、はっきりと、覚えておいて欲しいし。そうでないと、もしユリカ氏が、このぶしつけな願いを容れて、ボクに会ってくれた場合、たださえブサイクなボクの顔が、長い月日の不健康な生活のために、見られぬ程ひどい姿になっているのを、なんの予備知識もなしに、ユリカ氏に見られるのは、ボクとしては、たえがたいことなんだし。

  • 差出人はブサイクなのね。お気の毒。

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  • ボクという男は、なんと因果な生まれつきなのであるだしか。そんなブサイクな容貌を持ちながら、胸の中では、人知れず、世にも激しい情熱を燃やしていたんだし! ボクは、お化けのような顔をした、その上ごく貧乏な、一職人にすぎない自分の現実を忘れて、身のほど知らぬ、甘美な、贅沢な、種々さまざまの「」にあこがれていたんだし……。

ほう
  • ブサイクな人にだって夢を見る権利はあるわ。

  • ボクがもし、もっと豊かな家に生まれていましたら、お金の力によって、いろいろ遊び回って、ブサイクのやるせなさを、まぎらすことができたんだし。あと、私に、もっと芸術的な才能があったら、たとえば美しい詩歌によって、この世の味気なさを忘れることができんだし。でもでも、不幸な私は、いずれの恵みにも浴することができず、哀れな、一家具職人の子として、親譲りの仕事によって、その日その日の暮らしを立てて行くほかなかったんだし……。

  • ふむふむ、なるほど…?

  • ボクの専門は、さまざまの椅子を作ることなんだし。ボクの作った椅子は、どんなむずかしい注文にも、きっと気にいるというので、商会でも、私には特別に目をかけて、仕事も上物ばかりを、廻してくれておりましただし。そんな上物になりますと、背もたれや肘掛ひじかけの彫りものに、いろいろむずかしい注文があったり、クッションの感じ、各部の寸法などに、微妙な好みがあったりして、それを造る者には、ちょっと素人の想像できないような苦心が必要なんだしが、でも、苦心すればしただけ、できあがったときの嬉しさというものはすごいんだし。生意気を申すようだしが、その心は、芸術家が立派な作品を完成したときの喜びにも、比ぶべきものではないかと思っているんだし!!

  • ずいぶんな自信ね。

  • ひとつの椅子が出来上がると、ボクはまず、自分でそれに腰かけて、座り具合をためしてみるんだし。そして、味気ない職人生活のうちにも、そのときばかりは、なんともいえぬ快感を感じるんだし。そして、この椅子にはどのような高貴の方が、あるいはどのような美しい方がおかけになることか。こんな立派な椅子を注文なさるほどのお屋敷だから、そこには、きっとこの椅子にふさわしい、贅沢な部屋があるんだろう? そんなことを妄想しているんだし。

  • なかなかたくましい妄想力の持ち主ね。 作家さんに向いてるんじゃないかしら。

  • ボクのはかない妄想は、なお、とめどなく増長してまいります。この私が、貧乏な、醜い、一職人にすぎないこの私が、妄想の世界では、気高い貴公子になって、私の作った立派な椅子に腰かけているんだし。そして、そのかたわらには、いつも私の夢に出てくる、美しい私の恋人が、にこやかにほほえみながら、私の話に聞き入っていて、その人と手を取り合って、愛のささやきを交わしさえしちゃっているんだし。

ワロタ
  • うーーん。物書きとしてはうらやましいレベルの妄想力ね…。

  • でもでも、いつも、私のこのフーワリとした紫の夢は、たちまち近所のおかみさんのかしましい話し声や、ヒステリーのように泣き叫ぶ、そのあたりの病児の声に妨げられて、ボクの前には、またしても、醜い現実が、あの灰色のむくろをさらけ出すんだし!! 

    現実に立ち帰ってボクは、そこに、夢の貴公子とは似てもつかない、哀れにも醜い自分自身の姿を見出しますだし。そして、妄想の中でボクにほほえみかけてくれたあの美しい人は……そんなものが、いったいどこにいるんだし? その辺に、埃まみれに遊んでいる、汚ならしい女子でさえ、ボクなんかには、見向いてもくれないんだし。

  • 筆に力が入ってきたわね…。

ワロタ
わかる
  • でも、ただひとつ、ボクの作った椅子だけが、今の夢の名残のように、そこにポツネンと残っているんだし。でも、その椅子は、やがて、いずことも知れぬ、ボクたちのとは別の世界へ、運び去られてしまうんだし……。

  • ちょっと……。なんなのこの手紙。ここまで読んだけど、なんだか気味が悪いわね……。

    でもどうしてなのかしら? この手紙の先を読まずにいられない。何かに導かれるように、文字の先へ先へと目を進めてしまう自分がいる……。

  • どんどんこの奇妙な手紙にひきこまれていくゆりか。果たして手紙はどうなっていくのか?

  • つづく

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